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うつ病とその治療(3)

うつ病の治療

   うつ病は、本人の性格と環境の変化とで起こりやすくなりますが、起こった時の病態は、脳の機能の異常、さらに言うとセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン等の脳内の神経伝達物質の異常といわれています。これはまだ正確にその機構が全て解明されたわけではありませんが、これらの神経伝達物質のバランスを回復するような抗うつ薬はすでに開発されています。そこでうつ病の治療は抗うつ薬が中心となりますが、以下に述べるように薬物療法以外の面も重要になってきます。

(1)薬物療法と休養
 1957年にスイスのクーンが、イミプラミンの抗うつ作用を発見し、それまで直接の治療薬のなかったうつ病に薬物療法の道が開けました。その後、イミプラミンと同様の三環構造をもつ抗うつ薬が次々に発見され、これらは三環系抗うつ薬として、長く抗うつ薬の中心的な存在になってきました。

 三環系抗うつ薬には、口の渇きや便秘などの副作用もあり、最近ではより副作用の少ないSSRI、SNRIといった薬物も登場しています。SSRI(selective
serotonin reuptake inihibitor)は脳内伝達物質のうちセロトニン系に選択的に働き、またSNRI(serotonin/noradrenaline
reuptake inhibitor)はセロトニン系とノルアドレナリン系に作用します。いずれも投与初期に胃腸症状が1〜2週間みられるのを除けば、三環系抗うつ薬と比べて副作用が少ないため、飲みやすい治療薬として、日本でもうつ病の治療の第一選択薬として使われて来ています。

 しかし、これらの薬も実際には当初言われていたほど副作用が少ないわけではなく、さらに一部の薬は急に中止すると、めまいや吐き気、体のふるえや不眠等の症状が出ることがあるので、専門医のもとで適切に使用する必要があります。

 また、抗うつ薬は飲んですぐに効果が出るわけではなく、毎日飲み続けて1週間、2週間と時間をかけて効果が発現するものです。治療効果のピークは8週間目ぐらいになるため、それまでは、無理をせずに仕事を減らしたり、休養したりと脳や体の疲れをいやし、エネルギーの消耗を防ぐ必要があります。薬を飲みながら無理をして働いていたのでは、いくら良い薬でも充分な効果をあげられないのです。

(2)精神療法
 うつ病の治療は、症状の軽重によっても違いますが、軽症の場合は仕事を続けながらの生活指導と精神療法で回復します。中等度以上の場合には、一時的に休養が必要になる場合があります。その場合には以下のような順序で治療を進めていきます。なお、入院が必要なほど重症な方に関しては、うつ病の専門治療が可能な専門病院を紹介しております。

休息導入期

休息期

仕事復帰の準備期

仕事復帰期

 そして、既述したうつのタイプによって、各治療時期における精神療法的なテーマが違ってきます。

@仕事一体化型
 このタイプの人の休息導入期にまず出てくるのが仕事分離の不安です。自分が仕事をしないことに対して、とても不安を感じます。また、人によっては次のように仕事からの離脱症状が起きてきます。典型的な場合では、休むと心理的な不安が強くなり、焦りも出てくる。家にいても、職場に電話やメールをする。また反対に、その人がいないと困るので、職場からも連絡がくる。その結果、家で仕事をすることになり、いつまでたっても休むことができず、なおさら焦りがつのる。このように仕事を休んだ時に、一時的にかえって不安定になって、元の状態に戻ろうとしてしまうわけです。
  これをうまく乗り越えると休息期に入ります。最初の1,2週間は。睡眠時間が増えて、1日中寝ているような時期も出てきます。その後充分な休息がとれると疲労が回復し、睡眠や食欲が安定します。そしてその後は、生活リズムが戻ったかをチェックしながら、興味関心の変化を見ていきます。仕事一体化型の人は、(回復してくるとトレーニングジムなどに熱心に通うなど)一つのことに熱中して一生懸命やることを好みます。これを無理はいけないと言って止めないほうがいいと思います。次の時期は、仕事復帰の準備期で、会社に行くなどしながら、今後どうするかを相談します。復帰準備期に入ると復帰前不安が出てきますので、それに対する対応と、復帰計画の作成が必要となってきます。ここでは、企業の健康管理室、人事、総務、部署の上司など、企業の方との連携が必要になってきます。
 仕事一体化の人は常に仕事の量的な問題を抱えているので、まずそれを調整する必要があります。最初のうちは、リハビリ的な定時勤務からはじめて、徐々に残業を増やしていくというような復帰の仕方がいいと思います。仕事復帰期実際に復帰すると、仕事が来ると拒まずに、すぐやってしまう仕事のやりすぎに注意しなくてはなりません。調整に慣れてくると、集中的に仕事をした後に、計画的な休息がとれるようになります。さらには、どれくらい一生懸命やると疲れが出るかがわかるようになるので、それを予測して、はじめから年間の計画−暇なときに休みをとるなど−をたてることができます。それが出来るようになるとかなり安定し、復帰がうまくいきますが、反対にそれができないと再発の可能性が非常に高くなります。仕事のやりすぎに注意すること、そして、計画的に休息をとることが重要になってきます。

A知識専門職型
 知識専門職型の休息導入期には、役割葛藤・不安があります。そのために休むと一時的に役割から逃避ができて不安が低下します。休息期には、趣味的な日常生活を送る人が多いですが、仕事復帰の準備期がはじまるとまた不安が起こってきます。このタイプの場合は、仕事の質的な調整が必要となります。たとえば、復帰後には「技術職をやりたいが、年齢的に管理職をやれ」といった話が必ず出てきますが、こういった話に対しては、自分の意思をある程度明確にいう必要があります。仕事復帰の上で、わが道をいくという態勢をとれないと、また再発の可能性があります。逆に自分の意思をうまく言えて調整ができれば、安定した状態が続き、治療が終了することになります。

Bメランコリー親和型
 メランコリー親和型は、自分の持ち場をがんばって守る傾向が強いので、休息導入期には、医者が診断を下す、産業医が休息の指示を出す、上司が「君の仕事はうつ病を治すことだ」とはっきり宣言する、などといったことが重要で、そうすることによってこのタイプの人は、ようやく安心して休めるようになるのです。メランコリー親和型の人には趣味がないことが多く、趣味を作れと言うと、本人が葛藤し、ない趣味をがんばって探すという無理をしてしまいます。休息期には、家事や買い物の手伝いなど、日常の生活の中でリハビリを行う方がよいと思います。仕事復帰の準備としては仕事の持ち場の秩序を調整する必要があり、なるべく休職前に近い秩序に戻すことが望まれます。仕事復帰後は、職場に慣れているか、同化しているかをチェックしながら、状態の安定を保つようアドバイスをしていきます。

御家族の方へ

 うつ病が軽いうちは、本人は、会社ではがんばって症状を見せないようにします。しかし、家では、たとえば朝起きられないとか、出勤がつらいとか、比較的早く症状をあらわす人が多いのです。また、自分では、病気というよりも「自分の責任である。」「努力が足りない」と考えてしまい、なかなか病院に行こうとしないことも多いのです。しかし、家族、特に配偶者の人が気づいて、クリニックに相談に行き、そこから本人の治療が始まった方たちもたくさんいます。もし、上に書いたうつ病の症状がご家族に当てはまる場合には、早めに専門家に相談することをおすすめします。