知識専門職にうつ病が急増
     

リーダーたちに何が起こっているのか

 光洋クリニックは東京都心部の四谷と住宅地の光が丘の2カ所で診療していますが、とくに四谷では場所柄、知識専門職の人たちが数多く来院されます。法律事務所、会計事務所、特許事務所、コンサルティング会社などで活躍する人たちや、エンジニア、SEといった人たちです。これらの人たちに最近とりわけ多いのが、うつ病です。
  うつ病はこれまでメランコリー親和型とよばれる性格傾向を持つ人がなりやすい病気とされてきました。コツコツと地道に働く、まじめで“縁の下の力持ち”と呼ばれるような人たちです。こうした人が何かのきっかけで環境が変わると、発症することが多かったのです。
  ところが、最近うつ病に悩む知識専門職の人たちは、花形部署でプロジェクトリーダーを務める一種のエリート。彼らに一体何が起こっているのでしょうか。


残業と休日出勤を繰り返すうちに

 Aさんは20代のはじめにSEとして会社に入り、実力が認められて、だんだんと大きなプロジェクトを任されるようになりました。30代のはじめに、大手企業にヘッドハンティングされ、ビッグ・プロジェクトのリーダーに抜擢されました。
  本来、Aさんはスキルを武器に仕事をする職人タイプなのですが、リーダーとして人をまとめたり、管理したりしなければならなくなりました。また、仕事の進捗が遅れると、部下の分まで仕事を引き受け、残業と休日出勤を繰り返していました。
  そのうち、夜眠れなくなり、朝仕事に行きたくないと思うようになりました。不安感が襲ってきて、動悸もします。なんとか1日をやり過ごすものの、次の日もまたつらい1日が続きます。
どうにもならなくなって、Aさんはクリニックにやってきました。


働き方を考え直す時代になった

 Aさんには会社をしばらく休んでもらうことにしました。ところが、プロジェクトの進捗が気になって、あちこち電話をしたり、メールで指示をだしたり。そこで、Aさんの上司に協力を求め、仕事の連絡は上司を通じてのみ行うことにしてもらいました。本当は仕事先と連絡をとらないことが望ましいのですが、そう言うとAさんが反発するので、このような方法をとったのです。1ヵ月ほどすると、仕事に干渉しなくなりました。ようやく、本当の休養に入ったわけです。
  次の1ヵ月は、仕事を忘れて休養に努めたAさん。何年ぶりかで家族旅行にも行ったそうです。少し元気がでてきたと判断し、仕事への復帰の準備に入ることにしました。
  本人、奥さん、上司に私とカウンセラーを加えた5人でミーティングを開き、Aさんの仕事復帰について打ち合わせをしました。負荷のかからない仕事から始めること、気分の悪いときは早退を認めてもらうこと、などをみんなで確認しました。
  その後、Aさんは1年ほどで自分なりの働き方を見つけ、抗うつ薬などに頼らなくても生活できるようになりました。
  治療には2年くらいかかる場合もありますが、周囲の協力があれば必ず快復する病気です。知識重視の社会の中で、仕事ができる人ほど作業量が増大し、心理的なストレスが加わって、脳が疲れ果ててしまっているのが発症の原因ではないでしょうか。
  1つのプロジェクトが終了したら、いったん十分な休養をとるなど、働き方をみんなで真剣に考えないといけない時代になったと思います。


                  (NIKKEI.NET より)

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