うつ病とその治療(1)
うつ病とは
気分・感情の持続的な落ち込みと活動性の低下などを中心とする疾患で、脳の機能的異常が基礎にあると考えられています。一方で、発症には様々な状況的な因子や本人の性格が影響しています。
典型的なうつの症状
(1)感情の障害:
気分の暗さが著しく(抑うつ感)楽しさが感じられません。自信が喪失したり、物事を悲観的に考え、ひどくなると絶望的な気分になってしまうこともあります。また、過去のささいな失敗に罪責感を強くいだき自分の責任だと思い込んでしまったりします。この状態から抜け出したくても抜け出せないというあせりをいだくこともあります。
(2)思考の障害:
考えが頭に浮かばず、物忘れをする感じになります。また、自分の能力を過小評価したり、自分のことをつまらない人間だと思い込んだりします。これは微小観念と言って一種の症状ですが、本人は本気でそう思いこんでしまいます。
(3)意欲の障害:
今まで普通にできていたことをするのにも、余分の努力がいるようになる、人との会話がおっくうになったり、口数が少なくなる、なんとか目の前の仕事をしなくてはと思うのだがどうしてもやる気がおきない、などの意欲の低下が認められます。朝起きられなかったり、仕事に遅刻したりすることもあります。
(4)食欲低下、体重減少:
食欲がなく、何を食べてもおいしい感じがなくなります。ひどくなると1回にわずかしか食事がとれなかったり、1日に2回とか1回しか食べられず、体重も減ってしまいます。
(5)不眠、 特に早朝覚醒:
寝つくのは比較的よいが、夜中や早朝に目が覚めてそれから眠れなくなります。眠れない状態で過去を悔やんだり、将来を心配したり悶々とするようになります。また眠りが浅く夢が多い感じもします。
(6)自律神経症状:
全身の疲労感、異和感、胃部不快感、頭重感、首筋や肩のこり、口渇、便秘などの自律神経症状が出ます。
(7)日内変動:
今まで述べた症状は、早朝から午前中に特にひどく、夕方から夜にかけて比較的楽になるという日内変動を示します。
また、国際疾病分類(ICD-10)では、「うつ病エピソード」の症状として、
@抑うつ気分
A興味と喜びの喪失
B活動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少
の主要な症状と、以下の他の一般的な症状、
C集中力と注意力の減退
D自己評価と自信の低下
E罪責感と無価値感
F将来の対する希望のない悲観的な見方
G自傷あるいは自殺の観念や行為
H睡眠障害
I食欲不振
があげられています。
そして、これらが最短2週間続くことが診断の条件となっています。
*うつ病には軽症から重症までかなりの幅がありますので、必ずしもこれらの症状が一人の患者さんにすべて見られるわけではありません。また、精神科の専門医が見れば、発症から2週間以内でも診断ができる場合もあります。
仮面うつ病
仮面うつ病(masked depression)とは、本当はうつ病なのですが、身体的な訴えが前面にでるために、うつ病が覆い隠された状態です。
先に述べた自律神経症状が強く出ていると、患者さんは、身体的な病気だと思い、内科を受診します。そこでいろいろな検査をしても異常は出ず、また内科の薬も効果を呈しません。そこで患者さんが他の病院に行ったりとしても、そこでも異常は認められません。何回かこれを繰り返しているうちに、内科の先生が気づいて、うつ病の専門医に紹介し、そこで初めて診断がつき、抗うつ薬で頑固な症状がとれる、といった場合がこの代表的なものです。
内科の病院やクリニックを受診する患者さんの中には、この仮面うつ病の方が相当数いると言われています。