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外来でできる森田療法

3つの神経症

  森田療法は東京慈恵会医科大学精神科の教授を務めた森田正馬博士が創始した治療法です。森田療法がよく効くのは、不安神経症(パニック障害)、対人恐怖症、強迫神経症といった神経症です。
  なにかの機会に動悸、呼吸困難、めまいなどの不安発作に襲われ、再発の不安から電車に乗れなくなったり、外出できなくなったりする病気を不安神経症といいます。パニック障害もほぼ同じ病気と考えてもらってかまいません。
  対人恐怖症は緊張してしまって人前で話すことができない、人前で食事ができない、人前でサインができない(書痙)といった症状を持つ神経症です。
  強迫神経症は何か悪いことが起きたらどうしようか、という観念にとりつかれた状態です。何度も戸締りを確認しないと落ち着かない、何度手を洗ってもまだ汚いような気がする、といった症状がでます。

症状と場面のリストを作る

 森田療法の基本的な考え方は、頭の中でイメージとして膨らんでいる不安を「あるがまま」に受け入れ、それにとらわれず、行動によって解消していくものです。
  Pさん(31)は都心部のオフィスに通うOLですが、20代後半だったある日、通勤途中の地下鉄の車内で不安発作を起こし、それ以来、地下鉄に乗ることができなくなりました。JR線に乗って遠回りして会社に通う毎日です。
  そのうち、JR線に乗るのも不安を感じるようになりました。そればかりか、映画館やデパートなど多くの人が集まる場所に行くと、とたんに気分が悪くなります。仕事もできなくなって退職してしまいましたが、なんとかしたいとクリニックにやってきました。
  よく聞くと、Pさんが発作を起こしたのは一度きりだといいます。不安感が強いので、抗不安薬を飲んでもらいながら、森田療法に取り組んでもらうことにしました。
  まず、どんな状況のときに気分が悪くなるのか、症状と場面のリストを自分で作ってもらいました。それを見ながら、比較的簡単に取り組めそうなものを選んで、少しずつ行動を起こしてもらうのです。
  Pさんには、JR線に一駅だけ乗ってみるように勧めました。そして、そのときの気分を記録して次回の診察に持ってくるように指示しました。

改善率83.7%の「外来標準型森田療法」

 

次の診察のとき、Pさんは久しぶりにJR線に乗ったときのことを記録してきました。ドアが閉まる瞬間、気分が悪くなって降りようとしたが、ドアが先に閉まってしまい降りることができなかったといいます。なんとか、一駅がんばれたそうです。
  このようにして、診察のたびに新しい課題をだし、それに挑戦したときの様子や気持ちを記録してもらいます。1〜2週間に1度、クリニックに来てもらい、このようなことを繰り返すうちに、たいていは患者さんの方から、「次はこのことに挑戦してみる」と言いだします。
  こういう状況になれば、もう薬も必要ありません。Pさんも途中で抗不安薬を飲む必要がなくなり、治療開始から半年程度で不安感を持つこともなくなりました。その後、Pさんは新しい職場を見つけ、地下鉄に乗って通っているそうです。
 光洋クリニック(現在御茶ノ水医院 院長市川光洋)では、外来で行う森田療法に一定の方式を確立し、「外来標準型森田療法」と名付けました。この方法を確立した2001年以降、改善率を調べたところ83.7%でした。
  なお、森田療法がよく効くのは、まじめにものごとに取り組むタイプの人です。困難があるとすぐそこから逃げてしまう回避的性格の人は、課題をだしてもクリアする努力をしてくれないため、対話を主体とする「森田療法的精神療法」で対応しています。