対人恐怖症
対人恐怖症
対人恐怖症とは、社会的場面、対人場面を過度に意識して、緊張・不安をいだく神経症です。緊張する場面や症状によっていくつかのタイプにわかれます。
(1)スピーチ恐怖症・発表恐怖症等:
仕事をもつ男性に多く、最近は女性にも増えています。会議などでの発言中に緊張しての失敗を契機に、同じ場面になると、また緊張して失敗するのではないかと予期不安が強くなり、パニックになったり、その場面を回避したりするようになります。大学生がゼミの発表を機会になったり、スピーチの得意なはずの社長さんが、社長会での失敗をきっかけにスピーチ恐怖症になったりした例もあります。また、会社で部下の前で電話するときに声がふるえて恥ずかしい思いをして、電話恐怖症になった例もあります。
(2)サークル恐怖症:
女性、特に主婦に多い神経症です。たとえば小学校のPTA集会や趣味のサークルで、自己紹介の時に緊張して発言に失敗、それから、これでは皆の仲間に入れない、行っても恥をかくだけだとの思いが強くなり、集会やサークルに参加できなくなる、行っても緊張して発言できない、などの状態に陥ります。
(3)会食恐怖症:
若い女性に多い神経症です。人前で緊張して食べられなくなり、それを変に思われるのではないかとさらに緊張してしまうという症状です。恋人や婚約者など自分にとって大切な人の前で症状が強くなり、会食場面を避けてしまう、相手の家族に紹介されても、食事が怖くて家に行けないなど、重要な場面が特に困難となります。
またのどがつまったようで、固形物が食べられない、スプーンやナイフが緊張してふるえてしまう、など身体の緊張症状がみられる場合もあります。
(4)書痙・ふるえ恐怖症:
昔からよく見られる神経症です。人前で書類を書いたり、サインをしたりするときに字がふるえたのを契機に始まります。ふるえを止めようと工夫すればするほど、ふるえがひどくなり、最後には、一人の時もふるえるようになったりします。人前での記帳やサインを避けるようになり、ある患者さんは、何10年間も奥さんに記帳を代わってもらっていました。
また職業的にふるえると困る人達がそれを苦にする場合があります。例えばバイオリニストが手がふるえたり、声楽家が声がふるえたり、医師や看護婦が注射のときにふるえるなどといったものです。いずれも人のいる場面でひどくなりますし、場合によると職業に支障をきたす場合もあります。時に本人が「これでは仕事が続けられない」と思い込んで、深刻に悩む場合も見られます。
(5)表情恐怖・赤面恐怖・視線恐怖症等:
自分の表情、容姿、視線などが人に見られているのではないかとの不安・緊張を中心とする神経症です。たまたま、何かのきっかけで、他人の目を強く意識した時に始まります。
ある表情恐怖の患者さんは、会社を退職して、再就職までの期間に「昼間から仕事をしないで家にいるのを人に見られたら変に思われるのではないか」と意識し始め、「自分が暗い表情をしているのではないか。明るい表情をしていなければいけない」と道を歩く時や電車に乗っているときに、自分の表情に違和感を感じ、それがきっかけで自分の表情が気になって、人前で話す時に緊張するようになりました。
赤面恐怖は昔から見られる症状で、人前で赤くなったら気の弱い人間と思われるとのこだわりから対人恐怖に発展するものです。英語や国語の音読の時に「顔が赤いぞ」と言われて始まったりする例が多く、また、逆に「顔色が悪い」「青ざめているぞ」と言われてから、顔色にとらわれる例もあります。
視線恐怖も、「人と話をしている時は、相手の目を見て話さないといけない」「目をそらすと、何か後ろめたいと思われるのではないか」などとのこだわりから、人と話す時の視線にとらわれ始め、ひどくなると、会話中にどこを見てよいかわからなくなり、話をするたびに緊張して、会話が上の空になってしまう状態になります。
また、最近これらの症状の一類型に、「薄毛恐怖」と言えるような患者さんが増えてきました。男性用のかつらや、ヘアーチェックetcのコマーシャルを見てから自分の髪が薄いのではないかとの不安を感じ、会話中に自分の髪の毛を見られているのではないか、相手の視線が髪にいっているのではないかとの恐れから、会話が苦痛になったり、緊張するというものです。
このように対人恐怖症・場面恐怖症は、その時々の社会の風潮や、価値観などによって、様々な症状が見られ、また、症状の時代による変化もみられます。しかし、共通する要素として、これらの対人恐怖・場面恐怖の背景には、「人前で恥をかいてはいけない」との恥の恐怖・「自分は社会生活に適応できるのだろうか」との適応不安が根本にあります。そして、それが、「人前では自分はかくあるべき」という自分の外面へのとらわれとなって、神経症症状にまで発展していくのです。それゆえに、森田療法でこの「かくあるべし」へのこだわり、とらわれがとれると症状は急速に改善する例が多いのです。